小林一茶
Kobayashi Issa
- 作家名
- 小林一茶 こばやし いっさ
- 作品名
- 句文懐紙「ことしから~」
- 作品詳細
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掛け軸 紙本水墨 緞子裂 合箱
本紙寸法30 ×18
全体寸法42.5(胴巾)×99㎝ - 註釈
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【原文】
去十月十六日中風に吹倒
されて直に北邙の
夕のむなしき土と成りしほしふしきにも此正月一日ニ
初雞に引起されてとみに東山の旭のみか
よ出せる玉の春をむかへるとは我身を我めつら
しくさなかから生れ代りてふたたひ此世を歩く心ちになんことしからまふけ 遊ひそ日和笠
一茶
文政四年 雞旦
【語釈】 北邙―ほくぼう。墓場。埋葬地 鶏旦―元日のこと。
【訳文】
去る十月十六日に中風にやられて、
そのまま墓場の夕べのむなしい土となるところを、
不思議にも、この正月一日に、
一年最初のにわとりの声に起こされて
しきりに東山の旭のように磨きたてた玉のような春を迎えるとは、 我ながら、我が身を珍しく思い、
さながら生れかわって、ふたゝびこの世を歩くような心地であった。
ことしからまふけ遊びぞ日和笠
(中風でそのまま死んでしまうところを、はからずも生き延びたこのおれだ。これからの人生はすべてまるもうけをしたようなものなのだから、日和笠(ひよりがさ)でもかぶって外に出かけて気楽に暮らそうと思う) 一茶文政四年 雞旦(元旦)
文政3年10月に58歳で中風で倒れた後、新年を迎えた心境を綴ったもの。一茶にとってのいわば「新生」の文章である。この五年後に彼は亡くなる。
【検証】 以下は、風間本八番日記、文政四年巳の項。(一茶全集第四巻・151頁)
去十月十六日、中風に吹掛(倒)
されて、有(直)に比(北)邙の
夕の忌みゝゝしき虫となりしお、此の正月一日は
つ雞〔に〕引越されて、とみ〔に〕東山の旭のみが
き出せる玉の春を迎ひ(ふ)ふるとは、我身を我めづら
しく生れ代りて、ふたゝび此世を歩く心ちなんことしから丸儲ぞよ娑婆遊び
ことしからまふ(う)け遊ぞ花の娑婆
(以下続く)以下は、梅塵本八番日記、文政四年の項。(一茶全集第四巻・328頁)
去十月十六日、中風に引倒されて、直に北邙の夕
の忌みゝゝしき土となりしお、此正月朔日、初鶏
に引起されて、とみに東山の旭のみがき出せる玉
の春を迎ひ(ふ)ふるとは、我身をめづらしく、生れ替り
て、ふたゝび此世に生まれて歩行こゝちなんしたり
ける。ことしから丸も(ま)うけぞよ娑婆遊び
ことしからも(ま)うけ遊びぞ花の娑婆
(以下続く)一茶最後の自選句稿『浅黄空』(あさぎぞら)は、文化年間後半から文政年間を中心に春の発句530と俳諧歌4首を類題別に収める。その「春」の項には、『ことしからまふけ 遊ひそ日和笠』と、本作品と同じ下五は『日和笠』の句が所収されている。
(浅黄空)
書風より、文政8、9年、最晩年の作品に推定される。