夏目漱石
Natsume Souseki

 夏目漱石 2
 夏目漱石 3
 夏目漱石 4 夏目漱石 4
 夏目漱石 4 夏目漱石 4
作家名
夏目漱石 なつめ そうせき
作品名
詩書
作品詳細
掛け軸 紙本水墨 緞子裂 象牙軸 松岡謙箱
本紙寸法31.1×121.5
全体寸法47.3(胴幅)×190cm
註釈

《落花一夜雨 幽樹満川雲》

【補記】
漱石は、私か結婚した時に字を書いてくれた。私はべつに紙を買つて行たわけでもなかったし、墨を磨つたわけでもないが(多分、滝田樗陰が持つて行つた紙だらう)、漱石は私に字をやるから、この中からいいのを選んで持つてゆけと言って、自分の坐つている後ろの鴨居から五、六枚の書をぶら下げて見せた。どれがいいのか、どれでも同じやうで、私には分からないで迷つてゐると、漱石はこれがよからうと、自分で選んでくれた。それは何とかカンとか幽樹満川雲と書いたものだった。読み方まで教えて貰って、もう一枚、それはちょつと不出来だからと、漱石が顔をしかめるのを強いて貰つて、それは直ぐに書畫の好きな中根さんに上げた。その何とかカンとか幽樹満川雲は、表装して記念に大事にしておいたのだが、飼い猫がサカリのついた時に、床の間に掛けてあるのに小便を引つかけて、下部の方に少しシミを附けた。後で金子薫園さんが譲つてくれと餘り熱心にせがむので、百圓で賣つた。その時には漱石の書よりも、私には百圓紙幣の方が有り難かつたのだらう。
(『明治大正文学回想集成 16 / 明治大正の文学者・森鴎外と夏目漱石・(下ノ一) / 中村武羅夫』より抜粋)

※中村武羅夫の記した「何とかカンとか幽樹満川雲」が、この《落花一夜雨 幽樹満川雲》であるのか、漱石は同じ文言の書を他に書いているかもしれないので、今、その真相はわからないが、興味をそそる話には違いない。