夏目漱石
Natsume Souseki
- 作家名
- 夏目漱石 なつめそ うせき
- 作品名
- 山高月上遅
- 作品詳細
- 掛け軸 紙本水墨 緞子裂 象牙軸 松岡譲箱
本紙寸法17.8×21㎝
全体寸法55.8×132.5㎝ - 註釈
江藤淳と同じく、戦後を代表する批評家吉本隆明は、「わたしは漱石の作品に執着が強く、十代の半ばすぎから幾度か作品を繰返し読んできた。隅々までぬかりなく読んだので、一冊の本にその学恩ではなく、文芸恩を返礼するのが、わたしの慣例なのだが、江藤淳さんの優れた漱石論があるので、これで充分いいやと考えてそれをしていない。」(夏目漱石を読む・あとがき)としつつ、漱石を評し、「明治以降の近代文学の中で、夏目漱石と森鴎外は飛び抜けた、超一流の文学者という感じがする。資質も作品の傾向も違うが、世紀に一度とか二度しか出てこない作家だ。漱石でまず驚くのは、初めの『吾輩は猫である』から最後の『明暗』の途中で亡くなるまで、一度も停滞していないことだ。たるみの時期がない。技術的にも冴えてゆくし、内容もだんだんと重みと深みを増してゆく。その時期ごとの切実な課題を突き詰めていって、精神的に言えば、きっとだんだん苦しくなるばかりだったろうが、最後まで一歩一歩登っていくばかりで倒れたと感じさせる。そのたゆみない歩みの持続性は日本の近代文学の歴史で他は類例がない。」(日本近代文学の名作)と語る。漱石という作家は、自らの孤独を増しつつ、一方で、《山高月上遅》の如く、文学の高みを一歩一歩登って行った。そこにあるのは、悟達した聖者の姿ではなく、《和、漢、洋の三つの学に通じた明治の教養人の一典型》(明治の一知識人・江藤淳)ともいうべき一日本人の、明治という現実の世界を鋭く凝視した、誠実で痛々しい精神の軌跡であった。
小品ながら、「漱石の最も奥深いかくれ家」は、スマートで実に味わい深い。
月に形取った円相の表具が、良くこの作品を生かしています。