菅茶山
Kan Chazan
- 作家名
- 菅茶山 かん ちゃざん
- 作品名
- 詩書七絶 春夏秋冬 双幅
- 作品詳細
- 掛け軸 絹本水墨 緞子裂 合箱
本紙寸法 46.1x121.5
全体寸法(胴幅)57.1x195cm - 註釈
-
【原文】
四郭紅塵夜未収
林頭月色澹含愁
小閣期人々不至
生憎花影上欄頭追涼欄曲会賓僚
海上炎気晩已消
清露無声楓影浄
層波有響月輝鐃南軒有待不燃灯
四壁虫声夜気澄
指黙前峰留客坐
愛看大月抱松升夜山幽寂読書堂
寒襲衾裯覚有霜
欹枕耿然聴落木
半槞斜月暁蒼々【訓読】
四郭の紅塵、夜未だ収まらず
林頭の月色、澹として愁いを含む。
小閣、人を期して、人至らず。
生憎と花影の欄頭に上る。涼を追いて欄は曲がり賓僚に会す。
海上の炎気、晩に已に消ゆ。
清露無声にして楓影浄し。
層波響き有りて月輝くこと鐃たかなり。南軒に待つこと有りて灯を燃(た)かず
四壁の虫声、夜気澄む。
前峰を指黙して客を留めて坐す。
愛で看る、大月の松を抱(いだ)きて升るを。夜山幽寂たり、読書の堂。
寒さは衾裯(きんちゅう)を襲(おそ)ひ、霜有るを覚(おぼ)ゆ。
枕を欹(そばだ)てて、耿然(こうぜん)として落木を聴く。
半槞斜月、暁き蒼々。【訳文】
四方の盛り場の騒ぎは夜になっても静まらない。
林の上に出た月は、淡く光って愁いを含んでいる。
わたしの小さな部屋で人を待っているが、やってこない。
あいにくと誰も見ていないうちに、花の影が手すりにかかってしまったよ。涼しさを求めて、手すりづたいに歩いてお客さんと会った。
海からの熱気は夜になるともう消えてしまった。
清らかな露がおち、あたりはひっそりして楓の影だけが動く。
打ち寄せる波の音がして、月がゆたかに光っている。南の部屋で待ち望むことがあるのであえて灯火をつけない。
四方で虫の声がして、夜の空気は澄みわたる。
前の山を黙って指さし、客と共に座っている。
松を抱くように上ってくる大きな月を愛でるのである。夜の山は幽邃で、この読書室も静まりかえっている。
寒さは夜具の中までおそってきて、霜が下りたとわかる。
枕から頭をあげて、落ち着かないままに落ち葉の音を聞く。
半ば開いた連子格子から西に傾く月が見え、さえわたった夜明け前である。