乃木希典
Nogi Maresuke
- 作家名
- 乃木希典のぎ まれすけ
- 作品名
- 近藤懿十郎宛書簡(次男乃木保典戦死慰問状に対する返書)
- 作品詳細
- 掛け軸 紙本水墨 緞子裂 合箱
読者有志愛蔵品展覧会(愛知県美術館 / 週刊名古屋社)出品
本紙寸法113×18
全体寸法(胴幅)119×123㎝
- 註釈
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【翻刻文】
拝復
如仰寒気厳敷御座候處
不相変御壮健ニテ被遊候段
国家多事之秋大慶ニ存候。
次に小生儀出征以来無恙
公務罷在候間乍他事
御安心被下度候。陳バ今回
保典戦死ニ就テハ早速
御鄭重ナル弔詞ヲ忝シ
有難御厚礼申上候
御貇切ニ御尋ネ被下候戦
死ノ模様ハ去月三十日
午前八時半後備歩兵
旅団長友安少将ノ列后
トシテ某隊ノ前進ヲ促ス
為メ傳令使勤務途中
二〇三高地ノ麓ニ於テ敵
砲弾ノ破片ニ中リテ斃レ
タル次第ニ有之候間御承
知被下度先々御礼旁御
通報迄如此候敬具
十二月十六日
希典 拝
愚作
山川草木
轉荒涼
十里風腥
新戦場
征馬不前
人不語
金州城外
立斜陽御使ノ時糸原先生へも 御つたへ被下たく候
【現代語訳】
仰せの通り寒気厳しい折から
いつものように御壮健で
国家多事のこの時に誠に結構な事と存じます。
ついでながら、私も日露の戦いに出征以来
何事もなく公務に励んでおります。
私事ではありますが、どうかご安心下さい。
さて、今回、忰保典の戦死について、早速
ご丁重な弔辞を戴き
厚く御礼申し上げます。
ご丁寧にお尋ね下さった
戦死の様子については、先月三十日
午前八時半、後備歩兵
旅団長友安少将の隊列におり
某隊の前進を促すため
伝令として働いている途中に
二0三高地の麓で
敵の砲弾の破片に当り斃れた
次第です。
御承知おき下さい。先ずは御礼かたがた
お知らせ致します。 敬具【漢詩訓読文】
山川草木転荒涼
十里風は腥し新戦場
征馬は前まず人語らず
金州城外斜陽に立つ【漢詩現代語訳】
山や川、草木も荒涼として
十里を吹き渡る風も生臭いこの南山の戦場
軍馬も進まず兵士も黙して語ろうとしない
この金州城外の夕陽の中に私はただ呆然と
立ち尽くす次男、乃木保典が戦死した明治37年11月30日より16日後の12月16日に旅順攻囲戦中戦地より投函された貴重な書簡。乃木保典戦死の詳細が書かれ、日露戦争激戦の地、金州城の南近郊の南山で詠んだ「金州城下作」の詩書が添えられている。封筒には関東軍第二野戦局の消印がある。