【翻刻文】
草木之品在花桃花 於春菊花於秋蓮花
於夏梅花於冬四時 之花臭色髙下不齊
其配於人也亦然潘 岳似桃陶元亮似菊
周元公似蓮林和靖 似梅惟其似之是以
尚之惟其尚之是以 名之今之托於花者
吾得一人焉吉水處 士張某號菊逸蓋賢
而隱者屈子曰飡秋 菊之落英陶子曰秋
菊有佳色浥露掇其 英皆以菊為悦者也
皆古之賢人也菊之 美不待賛菊花之美
而隱者也某之托於 菊也亦不待賛
明治甲午(明治27年)夏日明陳白沙菊逸説 泥舟精書
【読み下し文】
草木の品は花に在り。春に於ける桃花、秋に於ける菊花、夏に於ける蓮花、冬に於いて
は梅花。四時の花の臭、色、蕊、莢、其の配は人に於けるも亦然り。
潘岳は桃に似て、陶元亮は菊に似る。周元公は蓮に似て、林和靖は梅に似たり。
惟れ其の之に似る、是を以って之を尚ぶ。惟れ其の之を尚ぶ、是を以って之を名とす。
今、花に托するに吾一人を得たり。吉水處の士張某、菊を號して逸とす。
蓋し賢にして隠者ならん。屈子曰く、秋菊の落英。陶子曰く、秋菊に佳色有り。
其の英の露、皆以って菊を悦びと為すもの也。皆古の賢人や菊の美にして賛を待たず。
菊花の美にして隠者也。某の菊に托するや亦賛を待たず。
【現代語訳】
草木の品性は花に現れる。春の桃、秋の菊、夏の蓮、冬には梅。その四季折々の花の香
り、色、花蕊、果実。その配合は人においても同様である。潘岳は桃に似て、陶元亮は
菊に似る。周元公は蓮に似て、林和靖は梅に似ている。人の性質が花の品性に似ている
ことにより、ますますその人を尊ぶ。尊ばれる事によってますます花に喩えられるよう
になる。
今、花になぞらえるべき人がまたここに一人いる。吉水處の士張某は菊を隠逸の花とし
た。おそらく賢明なる隠者なのであろう。
屈原は秋菊の散った花弁に美を見出し、陶淵明は秋菊にすぐれた趣を見た。菊の花に置
く露は人が皆賞美するものである。古の賢者も皆菊の美を備え持ち、敢えて賛するまで
もない。自ずからの美点を備えた隠者である。某を菊になぞらえるも、また賛するまで
もない。
美品です。