北村季吟詩歌懐紙
【原文】
御短冊早々見事奉
存候。十五夜には祇園
宝寿院にて五六人読之。
名にしおふこよひやわきて鴨河の
水そこすめる月を尋ん
雨後鴨河見月
雨晴三五夜
月照野塘奇
鋪凍波猶動
凝霜草不萎
風清生酔袖
汀遠潔詩思
橋上躡寒影
彷徨帰去遅
季吟
共治雅丈
【訓読】
御短冊、早々見事に存じ奉り候。
十五夜には祇園宝寿院にて五六人これを読み、
名にしおふ今宵やわきて鴨河の水底澄める月を尋ねん
雨後の鴨河に月を見る
雨晴る、三五夜
月は野塘を照らして奇なり
鋪は凍り、波は猶を動く
凝霜、草萎えず
風清く、酔袖に生ず
汀遠く、詩思を潔む
橋上に寒影を躡み
彷徨し帰り去ること遅し
季吟
共治雅丈
【訳文】
御短冊を早々にお見せくださり、見事に存じます。
この十五夜には、祇園宝寿院で、五六人がこれを詠んでみました。
名にしおふ今宵やわきて鴨河の水底澄める月を尋ねん
(名月という今宵こそ特に、鴨川の水底に澄む月影を眺めてみよう)
雨後の鴨河に月を見る
雨はあがった、この十五夜に、
名月は池塘を照らして興趣がある。
道は凍っているが、波はなんとなく動き、
霜がおりても、草は枯れていない。
風は清らかに、酔い心地に吹き渡り、
汀は遠く、詩ごころを澄ませてくれる
橋の上に孤影を引いて、
あちらこちらとさまよい、遅く帰ったことだ。
季吟
共治雅丈
美品。