乃木希典書簡
【原文】
拝啓
過二日拝別以来、海陸平安
巴理着、日々見物宴会等ニ而
忙殺候得共、当地ハ諸事簡易ニ
有之、自然我儘ニ流レ候次第、
慙入候。尊兄ニハ打続キ御多事ト
拝察候。折角御自愛専要存候。
近況大略御報迄如此候。匆々敬具。
七月五日 辱知希典拝
東郷先生尊下
追伸、乍憚水口中佐へ宜敷
御伝声奉願候、以上。
【訓読】
拝啓
過ぎる二日の拝別以来、海陸平安にて
巴理に着き、日々見物・宴会等にて
忙殺に候ふえども、当地は諸事簡易に
これあり、自然我儘に流れ候ふ次第にて、
慙じ入り候ふ。尊兄には打ち続き御多事と
拝察候ふ。折角御自愛専要に存じ候ふ。
近況大略の御報せまでかくのごとく候ふ。匆々敬具。
七月五日 辱知希典拝
東郷先生尊下
追伸、憚りながら水口中佐へよろしく
御伝声願い奉り候ふ、以上。
【訳文】
拝啓
二日にお別れして以来、海陸の道中平安にパリに到着しました。毎日、見物と宴会などで忙殺されておりますが、当地は万事簡略なので、自然我がままに過ごしてしまうことになってしまい、恥じ入っております。あなたは引き続き御多忙と拝察申します。なにより御自愛専要にお過ごしくださるように存じます。わたしの近況のおおよそをお知らせする次第です。匆々敬具。
七月五日 辱知希典拝
東郷先生尊下
追伸、恐れ入りますが、水口中佐へよろしくお声がけお願いいたします。以上。
封筒表書き
Admiral Togo
Claridges Hotel
London