問答の歌
むかしむかしこまとりみ籠の中より言ひけるはからすからす飛ふ鳥吾まと近く来れかし樹枝は君の枕かな青葉は君のしとねかな行くもかへるも思ふまゝ君か身こそはこひしけれ吾は深山を想ひ出て籠に泪をそゝく身そ小暗き窓にになかめ停り風と雲とをしたふのみ籠の外なる烏鳴き烏答へて言ひけるは善く歌ふ人善く愁ふなかなしみそ駒鳥よ君はまなごと愛てられて今や栄へのかこの中吾は寂しき樹のかけに獨り友なき籠の外すゝしき声のなかりせは君はなけきも見さらまし甲斐なきものと思ひきや吾身の幸を今そ知りぬる
本紙、小シミあり。